為替予約とは
為替予約とは、将来のある時点で行う為替取引について、事前に為替レートと数量を予約する取引きのことです。
なぜ、将来の為替レートの予約が成立するのでしょうか。
例えば、外国株を購入する日本人投資家は、100ドル(10,000円)で購入した株が1年後に105ドルに値上がりしても、為替レートの影響で105ドルが9,500円(1ドル≒90.48円)になっていると、円ベースでは損失を被ります。
つまり、取引時の相場が1ドル=100円だとしても、1年後にどのような為替レートになっているか予想できないという、為替リスクを抱えているのです。
そこで、将来的に為替相場が変動する影響を受けたくない投資家は、将来時点における為替予約レートを決めて「為替予約」という取引きを行います。このとき予約レートには、取引時点の各通貨の金利からあらかじめ導かれる理論価格を基に市場参加者が合意する「先物為替レート」を使って行われます。例えば、先物為替レートが、1ドル=97.56円だった場合、「取引当日から1年後に100ドルを売って9,756円を受け取る」という為替予約取引にブローカー(銀行・証券会社など)と合意するのです。なお、この取引の期間は、自由に決めることができます
先物為替レートの決まり方
では、なぜ為替相場は予測が難しいにもかかわらず、「1年後に100ドルを売って9,756円を受け取る」という契約が成立するのでしょうか。これは、多くの人が「1年後の為替レートが1ドル=97.56円というのは妥当だろう」と考えるからにほかなりません。
この、「1年後の1ドル=97.56円とする考え」が妥当な理由には、取引通貨の金利差が関係しています。
例えば、市場で取引可能な1年金利が、日本は0%、アメリカは2.5%とします。この時点でのドル円為替レートが1ドル=100円だとすると、10,000円相当の資金を各通貨で1年間預金した場合、一年後のそれぞれの価値は下記のようになります。
<1年間預金した場合の資産の変化>
日本 :10,000円 → 10,000円
アメリカ :100ドル → 102.5ドル
どちらの通貨も市場リスクのほとんどない取引なので、1年後には10,000円=102.5ドルが成立するという期待が成立します。もちろん、実際に1年後に本当にそうなるかは約束されませんが、現時点での1年後の為替レートの合理的な予測として1ドル=約97.56円(10,000円÷102.5)というレートに市場参加者は合意できるのです。このように、ある期間の先物為替レートは、通貨間の金利差から算出されているのです。
では、仮に1ドル=100円のときに「1年後に100ドルを売って11,000円(先物為替レート:1ドル=110円)を受け取る」という為替予約はできないのでしょうか?日米の1年金利差が2.5%(日本0%、アメリカ2.5%)という前提に立てば、取引に合意する相手(1年後に100ドル受け取って11,000円払ってもいいと思う相手)が現れる可能性はほとんどないでしょう。しかし、日本の金利が10%、アメリカの金利が0%の想定であれば、為替予約は成立するようになります。
為替予約の使われ方
為替予約は、外貨建て資産の価値に影響を与える為替変動リスクの低減(ヘッジ)に利用されています。
個人投資家向けの外国債券や外国株式に投資する投資信託には、「為替ヘッジありタイプ」と「為替ヘッジなしタイプ」の2つが用意されていることがあります。
このうち為替ヘッジありタイプは、運用会社が為替予約を使って為替リスクヘッジを行っているもので、一定のコストはかかりますが、為替変動リスクを低減できるのが特徴です。
為替予約にかかる基本的なコスト
為替予約を使ったリスクヘッジのコストは、どのように計算するのでしょうか。
例えば、1ドル=100円のときに10,000円分、すなわち100ドルの米国株を買うときに、「1年後に100ドルを売って9,756円(先物為替レート:1ドル=97.56円×100ドル)を受け取る」という為替予約をします。そして、1年間に為替レートが1ドル=95円になり、株の価値が100ドルから105ドル(+5%)になったとしましょう。
この結果、円ベースでの1年後の資産状況を考えます。
保有する米国株105ドルのうち、100ドルは為替予約のドル支払い充て、代わりに9,756円を受け取ります。残りの5ドルはこのときのドル円レート(1米ドル=95円)によって円換算し、475円を受け取ることになり、合計10,231円を手にすることになります。したがって1年間の投資収益率は2.31%となります。
ここでは、為替リスクをヘッジするために現時点の10,000円相当の米ドルを1年後に9,756円で受け取る契約に合意しているので、為替ヘッジのために-2.44%の為替ヘッジのコストが掛かったことになります。
一方で、仮に為替ヘッジをしていなかったとしたら、一年後の円ベースでの資産状況は9,975円(=105 × 95)となり、米国株は5%上昇したにもかかわらず、1年間の投資収益率は-0.25%ということになってしまいます。為替ヘッジをしたことで、投資収益を確保する効果があったという結果になります。
この為替予約を使ったリスクヘッジは、為替ヘッジを行う通貨の金利差がおおよその目安となります。紹介した例では、契約時点のレートが1ドル=100円、先物為替レートが1ドル=97.56円で100ドル分なので、ヘッジコストは2.44円×100=244円でしたが、この244円は元本10,000円の約2.44%となり、日米の金利差約2.5%(日本0%、アメリカ2.5%)に近い値になります。
このヘッジコストを支払うことで、仮に1ドルが為替予約した97.56円より安くなった場合でも、ヘッジコスト以上は損失しないで済むわけです。
また、逆に日本の金利の方が米国の金利よりも高い場合、為替ヘッジによって、金利差分のプレミアムを得ることができます。
為替ヘッジのコストを左右する要素
為替予約にかかるコストは、基本的には通貨間の金利差によって近似されます。しかし、実際に「為替ヘッジあり」の投資信託のコストを考える上では、「通貨の需給状況」も関係してきます。
通貨の需給状況
為替予約は契約なので、成立させるには取引相手が必要です。「ドル売り円買い」の需要が、「円売りドル買い」の需要を上回っている場合、実際の取引価格は理論的に算出される先物為替レートに比べ、円売りドル買いに有利なところに落ち着きます。その幅は時期によっても変動しますが、ドル円の為替予約では過去数年は0.3~0.6%程度で推移しています。ただし、瞬間的には2.0%近くになることもありました。